弁護団の紹介

鈴木 朋絵 弁護士

もう10年以上も前のことです。

「私は結婚という制度が大嫌いなんです。だから結婚式には行けません。」

大事な友人に私の結婚式に来てほしいとお願いしたら、こんな回答が返ってきました。
自分が、豆鉄砲をくらったような、ぽかんとした表情になったのを覚えています。
最初は意味がわかりませんでした。
これは単なる口実であり、自分は友人だと思っていたけど、実は私は友人から嫌われていたのだろうかと不安さえ生じました。

それでも、理解できるまで説明してほしいとお願いしたところ、友人は同性愛者であって、同性愛者には法律婚が認められていないから結婚制度が好きになれないのだと率直に話してくれました。

「法律婚を選ぶことができない」という立場を社会から押しつけられていること。

民法を学んで結婚制度を理解していたつもりでしたが、自分の目の前に、法律婚制度を選びたくても選べない人があらわれたのは初めてでした。
もっと前から周りにはたくさんいたのかもしれません。でも、私に打ち明けてくれたのはこの友人が初めてでした。

友人の気持ちを酌んで、それ以上、出席のお願いをすることはやめました。
でも、このときのことはその後もずっと気になっていました。

なぜ、法律婚は戸籍上の異性間に限られるのでしょうか。
限定することを正当化する合理的な理由は何一つ浮かびません。
子どもができないから?
でも、戸籍上の異性であれば、不妊カップルも、閉経後のカップルも法律婚をすることができます。

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律ができても、手術をしなければ性別変更ができません。特例法ができても、法律婚ができるまでのハードルは高いままです。

あるとき、自治体の人権推進指針を議論する審議委員となりましたので、性同一性障害者の人権保障に加えて同性愛者の人権保障を盛り込みましょうと提案しましたが、「まだ早い」と一蹴されました。今まさに、法律婚を選ぶことができないことに苦しんでいる人がいるのに、「まだ早い」とはなんなのだろう、遅いぐらいなのにとかなり憤慨しました。
しかし、私の周りにセクシュアル・マイノリティの話題をふっても、「オネェの話か」「あなたもBLが好きな腐女子なのですか」とからかわれるばかりでした。特例法はできても、国民的な議論のベースが全然足りていないのだと痛感しました。

そんなモヤモヤが高まっていたときに、この友人から、同性婚制度を求めて日弁連に人権救済を申し立てると聞き、弁護団に入りました。

申立人の方々の陳述書全部を何度も読みました。
読めば読むほど、私はなぜもっともっと早く、この社会的課題に気づくことができなかったのかと悔やまれましたし、だからこそいまから同性婚制度が必要だと声をあげていかなければいけないとの気持ちも強まりました。

とっくの昔に同性婚制度ができていたら、あのとき、私は大事な友人に結婚式に出てもらえたのだろうか。
過去にもしもはないけれど、ときどき考えてしまいます。

同性婚制度は、自分をセクシュアル・マイノリティではないと思っている人々自身の社会的課題でもあります。無関心から一歩前に踏みだし、まず、課題の存在を知ってほしい。そして、考えてほしい。そう願って、弁護団活動をしています。

2016年9月26日掲載

弁護団員の鈴木朋絵と森あいによる論文「『同性』カップルの日本での婚姻について」を本HPにて読むことができます。

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