弁護団の紹介

山下 敏雅 弁護士

山下敏雅弁護士

弁護士は、「基本的人権の擁護」が使命です(弁護士法1条)。

人は、どんな人でも、一人ひとりが、大切な人間として扱われる、尊重される、ということ。
だれかの「物」や「人形」や「奴隷(どれい)」として扱われるのではなく、大切な存在、大切な人間として扱われる、ということ。
だれもが、一人ぼっちではなく、「ここにいていいんだ」という居場所があること。
自分の人生を自分が決めていくことができるし、そのために、みんなと一緒に考えることができること。
そして、毎日の暮らしを安心してすごすことができるし、幸せな人生を送ることができる、ということ。
それら全部をひっくるめて、法律の世界では、「人権」という言葉で表現します。

今回、「同性同士で結婚ができないことは人権侵害だ」と、弁護士会に訴えます。

少し長い文章ですが、12年前に私が弁護士登録した際、当時勤務していた法律事務所のウェブサイトに掲載した記事を、皆さんにご覧いただきたいと思います。
この事件は、私が今、弁護士としてLGBTの問題に取り組んでいる原点です。

日本全国の弁護士と、日本の社会全体が、「同性婚は人権の問題なのだ」ということを認識するようになるためにも、多くの皆さんが、申立人として加わり、声を上げてくださることを、心から願っています。

「いごんじょう」

私が弁護士になる前のことです。

突然かかってきた友人からの電話で、病院へと呼び出されました。
余命わずかとなった知り合いが、長年連れ添ってきたパートナーに全財産を譲り渡したいので、書類の形式に不備がないかどうか見て欲しい、ということだったのです。

病室に横たわっているその人は、まだ若干の意識があって会話はできるものの、非常につらそうな状態でした。その横には、私を呼び出した友人と、落ち着きなくうろたえているパートナーがいました。
病床の彼とそのパートナーは、数ヶ月前に日付まで入れた養子縁組届を作成しておきながら、それを区役所に提出しないままでいました。日付の訂正だけでは、届出時に縁組の意思が本当にあるのか区役所が疑って受理しない可能性もあるので、改めて新しい養子縁組届に自筆で署名してもらいました。
そして、万一その縁組届も受理されなかった場合に備えて、全財産をパートナーに遺贈する旨の遺言状も作成することになりました。
遺言状は、原則として全文を本人が書かなければなりません。自筆できない場合には例外として他の人が代書し、証人を複数構えて診断書を提出すればよいのですが、そう説得しても、なぜか彼はどうしても自筆にこだわりました。
彼は意識が朦朧としていることもあって、数行の遺言状さえ書くのが辛い状況でした。文字のサイズは巨大、形も歪み、そして何度も何度も漢字を間違え、その度に意地になって綺麗に書き直そうとします。私は遺言状のひな形を見せながら真横で彼が懸命に文字を書くのを見守るのがとても苦しくて、その場から逃げ出したい気持ちにさえなりました。
そうして何十分もかかって完成した遺言状は、まるで小学2年生が書いたような、平仮名だらけの「いごんじょう」でした。

法律上婚姻しているカップルであれば、遺言を書かずとも、パートナーは相続権を有します。
しかし、彼らは法律上婚姻の認められていない、同性のカップルでした。
同性愛者の中には,法的保護を求めて養子縁組制度を利用するカップルもいます。目前のカップルも縁組の意思はありながら、そのまま時間が過ぎ、結果的に最悪の事態を迎えてしまいました。パートナーが外国人であったために、縁組の手続きが複雑だったことが、彼らをためらわせていたのです。
懸命に看病しているパートナーは、病床の彼の経営する店の従業員だったため、経済的に全面的に依存しており、相続にせよ遺贈にせよ、とにかく財産を受け取れなければ、無一文になってしまいます。

ようやく養子縁組届、遺言状を作成し終えて、養子縁組届を区役所へ提出しようとしたときでした。地方から病床の彼の親戚が駆けつけてきて「死亡直前の状態を利用してこいつらが何か企んで署名押印させている、一体何の不正をしているのか」とものすごい剣幕で迫ってきたのです。
法律上は、たとえ親戚が異議を唱えていても、養子縁組届をする当事者同士の合意が優先します。しかし、死を目前にした状況で焦っていたパートナー側が急ぐあまり、親族への説明を欠いて要らぬ誤解を招いてしまったのでした。
パートナーや私を呼び出した友人たちがこれまでの経緯を説明し、時間はかかったものの、親族らに納得してもらうことはできました。
本来ならば、当事者本人から親戚に直接説明して理解してもらうのが一番早いのですが、ベッドの上の当事者は意識が更に朦朧として、確固たる養子縁組の意思を説明することもできず,大変もどかしく思われました。

それから数日後、その方が亡くなられたと連絡がありました。
さらにその数ヶ月後,知人からその後の経過を聞きました。
一旦は事情を納得してパートナーと一緒に区役所へ養子縁組届を出しに行ったはずの彼の親戚は、その後気持ちを翻し、「遺産を全部受け取るつもりならば入管にオーバーステイ(不法滞在)を告発する」と言い出した。パートナーは、僅かの財産を受け取って東京から離れていった、と。

「法は家庭に入らず」という、有名な法諺(ほうげん)があります。家庭という私的な場面に国家が立ち入らない方が好ましいという考え方です。近年この考え方が修正され、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)が制定されたのも記憶に新しいところです。
しかし、一方で法が「家庭」そのものを定義づけ、「家庭」に対して様々な保護を与えているのも、また事実です。そしてその定義に該当しないもの−−夫婦別姓を実践している事実婚カップルや、同性婚など−−を、その保護の範囲外に置きます。社会保障の分野では男女の事実婚に関する規定もありますが(例えば、労働者災害補償保険法上、事実婚の夫婦は遺族年金等の受給権者となります)、社会生活を営む上でまだまだ不便は多いと聞きます。
今、弁護士として、過労死・過労自殺で亡くなられた方のご遺族と接する機会が非常に多くあります。故人を亡くしたご遺族の辛さ、悔しさ、そして企業に対する憤りに接するたび、「家族というものの基本はこれなのだろう、この人と一緒に生きていきたい、生きていきたかったという『思い』なのだろう」と強く感じます。そしてその『思い』は、戸籍や住民票上「他人」同士とされる「家族」でも、同じだと思うのです。
ヨーロッパでは近年同性婚ないしパートナーシップ法を制定する国が相次いでおり,アジアでも、現在台湾で同性婚法案が準備されています(※)。日本ではまだそのような動きすら出ていませんが、冒頭の同性カップルのような事態は着実に増えていくと予想されます。
私が弁護士としてこれから様々な人権問題、そして「家族」の問題に取り組んでいくにあたって、あの「いごんじょう」は、強烈な原体験としていつまでも自分の中にとどまるだろうと思っています。
(2003.12.29)

※ 台湾で2003年に提案された同性婚法は,その後結局成立せず,2015年5月現在も制定されていません。

2015年5月15日掲載

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