同性婚人権救済

人権救済申立書【概要版】

以下と同内容の同性婚人権救済申立書【概要版】をダウンロードできます。
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また、English versionもあります。English versionは、LGBT弁護士・支援者ネットワーク「LLAN」(LGBT Lawyers & Allies Network)により翻訳いただきました。感謝申し上げます。なお、LGBT弁護士・支援者ネットワーク「LLAN」は、LGBT支援法律家ネットワークとは別のネットワークです。

申 立 の 趣 旨

貴連合会が、
1  被申立人内閣総理大臣及び同法務大臣に対し、同性婚法案を国会に提出するよう勧告する
2  被申立人衆議院議長及び同参議院議長に対し、同性婚法を制定するよう勧告する
旨の人権救済を求める。

申 立 の 理 由

第1 本件の概要

本件は、現在日本において同性婚が認められていないことが、同性愛者、両性愛者等、同性婚を求める者に対する人権侵害にあたることから、内閣総理大臣及び法務大臣に対し同性婚法案を国会に提出すること、並びに、衆議院及び参議院に対し同性婚法を制定することにより、人権救済すべく、これらの勧告を求めて申立てに及んだものです。

第2 申立人ら

申立人らは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)など、日本で同性婚が法制化された場合に、同性婚をすることを希望する可能性があると考える者です。

第3 性的指向について

  1.  性的指向とは、恋愛や性愛といった親密さの感情や欲望の向かう方向を指します。
  2. 社会における人口としては、異性愛者が多数者(マジョリティ)であり、同性愛者や両性愛者は少数者(マイノリティ)です。そのため、同性愛は、時にしてその「原因」が関心の対象になる事がありますが、結局のところ、同性愛の「原因」はわかっていません。とはいえ性愛は、人が生きていく上で、人格の本質とも密接に関連した
    極めて大切な要素です。この点、多くの申立人が、陳述書の中でも、自らにとっての同性パートナーの大切さ、意義を述べています。
    「家族以上に大事な存在です。生きがいです。いなくてはならない存在です。・・・お互い精神的に辛いことがあったときには、励ましあって、支えていきたい存在です。」 など
    もちろん、他者との深い親密さは時に裏返しの弊害(ドメスティック・バイオレンス等)を生むこともあるにせよ、総体としては、他者との親密な関係は、異性愛の場合は大切なものとして扱われ、社会的にも、婚姻制度に象徴されるように、法的な保護の対象に位置付けられています。
  3.  厚生労働省の研究班による性的指向の調査によれば、ゲイ・バイセクシュアル男性は、国内の男性の中で3~5%いると推定されています。つまり、学校の1クラスに約1名はいることになります。レズビアン・バイセクシュアル女性についても同程度の数字が報告されています。
    ところが、異性愛が当然とされ、同性愛に対し差別・偏見がある社会の中では、同性愛者は、異性愛者として振る舞わざるをえなくなり、強い心理的葛藤をもたらす事が多くあります。こうした結果、同性愛者を含む性的少数者は、自身のメンタルヘルスを悪化させたり、自殺念慮や自殺未遂の割合が高いことが報告されています。政府の自殺総合対策大綱でも、同性愛者を含む性的マイノリティの自殺念慮の割合等の高さについて言及されており、2015年3月に発足した性的少数者への差別解消を目指す超党派の国会議員連盟でも、自殺念慮の割合の高さが着目されています。申立人の中にも、同性に対する恋愛感情の自覚が自己否定の感情となり、自殺念慮・自殺未遂にすら繋がった実例が多々見られます。
    「私は子供の頃から女の子が好きでした。その事を自覚したと同時に私の中にある『常識』は私を殺そうとしました。初めて自殺未遂をしました。私は9歳でした。」 など
  4. 同性愛を隠すと内面に心理的葛藤を覚えてメンタルヘルスを悪化させ、他方で、同性愛を公言しても、差別・偏見に遭うリスクを負います。このように、同性愛に対する不可視化と差別・偏見は表裏一体の関係にあり、少数者(マイノリティ)の当事者にとっては生きづらく、声をあげにくい状況が続いてきました。

第4 日本における同性愛を巡る状況

  1. 性的少数者の両親は、ほぼ全ての場合において、性的多数者です。例えば、民族差別や人種差別の場合には、少なくとも親や兄弟などの家族は同じ境遇にあるものとして味方となるといえます。しかし、多くの同性愛者が自己の性的指向を自覚する際には、家族からも孤立した状態から出発します。同性愛者などの性的少数者は、本来的に孤立状態に陥りやすいのです。
    性愛は、人が生きていく上で、社会において他者との親密な関係性を育み、自己の精神的支えともなるものです。このことは異性愛者と同性愛者・両性愛者とで違いはありません。しかし、同性愛者にとっては、他者と継続的な恋人関係になることも困難な時代がありました。今日こそ同性愛者・両性愛者に対する理解の輪は広がっているものの、未だに差別や偏見は根強いため、このような困難性が解消されているわけではないことにも注意が必要です。
  2. 同性愛については「治療」や「非行」の対象とされていた時代もありましたが、アメリカ精神医学会やWHOが異常・倒錯・疾患等ではないとし、日本精神神経学会もこれに続いています。また、1994年に文部省(当時)も、「性非行」の項目から同性愛を除外しました。さらに、文部科学省は、2015年4月30日、同性愛・両性愛を含む性的マイノリティの児童生徒についての相談体制等の充実を図るように、教育委員会などに通知を出し、矯正が必要な非行少年からケアが必要な児童生徒であるとの考えに大きく変化しました。
  3. これまで同性愛は差別・偏見の対象でしたが、近年そのような状況は変わりつつあります。
    当事者による自助団体やセクシュアルマイノリティ支援を目的としたNPO法人などによる相談業務、パレード・LGBT成人式などの各種イベントの開催、地方自治体による支援、企業による支援なども活発になってきています。また、権利擁護の面でも、府中青年の家事件の裁判例や、石原慎太郎都知事の差別発言に対する人権救済申立てなどで、人権問題として意識されるようになりました。
  4. 特に、この2、3年は、結婚を望む同性カップルの存在が広く顕在化・可視化されています。結婚式を行う同性カップルや、市役所に婚姻届を提出した同性カップルもいます(憲法24条1項に違反するなどの理由でいずれも不受理)。
    また、2015年3月31日には、渋谷区で、同性パートナーシップ証明書の発行等を内容とする条例が可決されました。行政が同性カップルの存在を認め、その関係性を証明することとした意義は大きいものがあります。とはいえ、婚姻届と比べて手間や費用がかかり、特段の法的効果もありません。同性カップルの種々の法的問題を解決するには、同性婚の法制化が必要です。
  5. 同性カップルに関する比較的最近の調査データとして、2004年に行われた「同性間パートナーシップの法的保障に関する当事者のニーズ調査」(「血縁と婚姻を越えた関係に関する政策提言研究会」有志ニーズ調査プロジェクト)があります。
    この調査結果から、同性カップルも異性カップルと同様に、健康保険の扶養者扱い、税金の扶養者控除、給与付属の家族手当、職場での介護休暇、公営住宅への入居権、生命保険の受取、相続権などの法的保証の必要性を感じていることがわかります。パートナーの生死に関わる保障については、入院したときの看護・面接権、医療上の同意見は8割以上が「非常に必要」と考え、「必要」も合わせれば、約95%に及びます。

第5 同性カップルの婚姻からの排除とその不利益の重大性

1 総論
現時点において、同性同士のパートナーシップを保護・尊重する法規定は存在しません。同性カップルは、様々な局面で、異性カップルと異なり、不利益的な扱いを受けています。同性愛者・両性愛者も異性愛者と同じように、特定のパートナーがいれば、共同の生活を望む者も多いにもかかわらず、同性同士のカップルというだけで、異性カップルと比べて、様々な困難を生じているのです。

2 現行民法の規定
民法は、婚姻の成立要件として、「当事者」間に婚姻意思があること、「当事者」が届出をすることを求め(民法739条、740条、742条)、「男女」とは定めていません。また、同性同士であることは、明文で婚姻障害(民法740条、731条~737条)とはされていません。
それにもかかわらず解釈として同性婚が否定される理由について、学説では、同性同士では実質的婚姻意思を欠くから、とするものもあります。
同性カップルが婚姻から排除されているため、以下に詳述するように、当事者らは様々な重大な不利益を被っています。

3 各論
(1)  パートナーと死
生前に、パートナーが遺言書を作成している場合を除いて、遺された者が死亡したパートナーの所有財産を承継できず、そのため、二人で築いた財産であるにもかかわらず、遺された者が財産を全く承継することができないという事態が生じています。
不動産や預金等、ふたりで協力して作り上げてきた財産に対しても、万が一その名義人が亡くなった場合、そこに住む権利が奪われてしまう、という不安があります。遺言等により、住み続けられるよう、財産を遺せるよう手配してはいますが、法的には他人であるため贈与扱いになり、異性間夫婦に比べて手間がかかるばかりか、税制上も不利な扱いになるなどの不公平を感じます。・・・いざという時の安心すら、個人でカミングアウトをするという努力と負担と時にリスクを負わなければ手に入らない、という現状は、積もり積もって大変な不便に感じられます。
先に亡くなった際に同性パートナーへの遺族年金もありません。国民年金基金に入るなどの努力をしても遺族一時金は支給されません。異性間の夫婦しか前提としていない制度設計であるため、現実に二人で生きているにも関わらず、常に一人一人の単位の高度な自助努力が求められるように感じます。」 など法律・制度上の不利益を超えて、そもそも、葬儀において、親族席に座れないことさえ多くあります。喪主どころか、そもそも親族席に座れず、死者と十分な別れをすることさえ満足に許されません。

(2)  パートナーと病院
パートナーが倒れ、意思を確認することができない場合、病院側は、法的に「親族」でない同性パートナーとの面会を認めることは少なく、病状の情報についても、提供することに消極的であることが多くあります。同性パートナーに対する医療同意は求められません。
30歳、一緒に暮らす家で恋人が喘息の発作を起こした。救急車を呼んでほしいと言われ、救急車に乗った。救急隊員に『この方との関係は?』と聞かれ、『親友です』と答えるのが精一杯だった。病院に着き、恋人は救急隊員に連れて行かれた。帰ろうとする救急隊員に状態を聞いたが『血縁者でないと教えられないんですよ。』と言い救急隊員は居なくなった。私は受付の前で3時間待ったが、誰も彼女の様子を教えてくれない。受付の人にも聞いたが『血縁者以外には教えられない』と言われた。そのあと、どこからか恋人が私を呼ぶ声がしたので、声のする方にいくと、点滴につながれた彼女が手まねきをしていた。しかし私は『血縁者じゃないから、入れない』と言ってしまった。彼女が『そんなのいいから』と喘息で苦しいなか言ってくれなかったら、もっと言えば、名前を呼んでくれなかったら、私は彼女がどこにいて、どんな治療をされているのかも知らないままだったし、その時にもしものことがあっても、私は知らされなかったかも知れないと思うと背筋が凍った。」 など

(3)  パートナーとの別れ
同性カップルの場合、異性カップルと異なり、ともに二人で共同生活をしていても、自身の名義にない財産の返還を求めることは困難です。特に専業主婦や専業主夫として家計を支えていた場合には、カップルが共同生活を開始した以降の財産形成に寄与していたことがあったとしても、財産分与の請求が認められるかは不明です。

(4)  パートナーからの暴力
DVは、心身に重大な被害を及ぼし、特に深刻な場合、被害者の命を奪うことすらあります。もちろん、DVは、異性カップルにおいてのみ起こるものではありません。しかし、同性同士の交際もDV防止法の保護対象であるかどうかについては、解釈が分かれています。

(5)  パートナーと住宅
同性カップルが住宅を購入しようとする場合、概ねどの金融機関においても、婚姻関係にない者同士のペアローンを受け入れていない。
家を買いたいけれど、共有名義のローンは組めません。例え購入できたところで、名義人が亡くなってもパートナーに財産を残せません。公正証書という方法がありますが、公正証書の発行はお金も掛かり、決して安くはありません」など
また、同性カップルの場合、同居するための賃貸物件を借りることすら、困難が伴います。
同性のパートナーと二人で賃貸住宅を契約しようとした際に、同性二人での賃貸契約を断る大家さんが候補案件のほぼ半数程度あり、驚いた。住宅の選択の幅が制限されたことになり、不便を感じた
部屋を借りるのが大変でした。二人入居可と記載されていても、それは夫婦、または男女のカップルに限る場合が多く、友人同士はお断り。かといって、カップルです、という勇気も無く…。たくさんの大家さんから拒否されました。いつかまた引っ越そうと思ったとき、またこんなに大変な思いをしなくてはいけないのか、と考えると悲しいです」 など

(6)  パートナーの実子との関係
女性の同性愛者や両性愛者が子どもをもうけ、女性カップルで子育てをするケースもあります。このようなケースの場合、同性のパートナーと自身の実子との間には法律上の家族関係を築くことができず、大きな不利益を受けています。
2012年に双子が生まれたときから、私たちはたくさんの理不尽な事実に直面しています。具体的には、

  • 病院で帝王切開の手術の際に、彼女ではなく、私の血縁の家族の同意の署名が求められました。
  • 出産に際しては、手術室の横に『旦那様の席』があり、同性の彼女は入れませんでした。
  • スペインでは子どもたちは両親の名前とともに正式に登録されているが、日本の戸籍には、出産した側の名前しかのっていません。 しかも、子どもたちは『非嫡出子』として登録されています。
  • 私と彼女はともに二人の子どもを深く愛し、養育しています。しかし、現在の日本の法律では、私たちは共同で親権者になることができず、私がもしもの時のために遺言を作成しておいても、彼女は親権者ではなく、あくまで法律上の”後見人”にとどまります。」 など

(7)  パートナーと国籍・在留許可
外国人が日本に在留するには、法務大臣が発行する在留資格を得る必要があります。在留資格には、「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「家族滞在(在留資格をもって在留する外国人の扶養を受ける配偶者)」というように家族関係に着目したものがありますが、同性カップルの場合には、日本人の「配偶者等」には該当しないとされています。
私にとって一番大きな問題は外国人のパートナーの日本での滞在許可の問題です。私はフランスで暮らしているときに今のパートナーと知り合い、PACSをしました。そのお蔭で私はフランスでの滞在許可を延長することができました。私が日本に帰国するときに私のパートナーも私と生活をするため日本に来ることになりましたが、同性婚、PACSさえない日本では本人が日本で仕事を見つけて就労先からビザを申請してもらうしか日本での滞在許可を得る方法はありませんでした。日本への移住を決めたときから仕事を探しましたが、日本語が話せない私のパートナーにすぐに仕事が見つかるはずもなく、仕方なく日本に観光ビザで入国しました。ビザも仕事もない状態で本当に先行きのわからぬまま不安な日々でしたが本当に幸運なことに仕事がすぐにみつかり就労ビザを得て滞在許可を得ることできました。あの時仕事が見つからなかったら私のパートナーはすぐにフランスに帰らなければならなくなり、今私たち二人はどのようになっていたか、今となっては知る由もありません。今現在でもパートナーが仕事を失えば日本に在留することはできなくなるという状況です」など

(8)  その他
生命保険契約締結の際に、死亡保険金の受取人を同性のパートナーにすることを、生命保険会社の多くは拒否しています。また、民間企業が顧客向けに提供している「家族割引」「夫婦割引」「家族サービス」なども利用できないことがほとんどです。さらに、職場での従業員に対する福利厚生でも、ほとんどの企業が、その適用対象として法律婚を前提としています。
数年前、会社から海外駐在要請の話があり、私・パートナー共に海外生活を希望していたため、意を決してパートナーを複身者として家族転勤を希望しましたが、残念ながら叶わず海外転勤の機会を諦めました。婚姻関係がないため、海外駐在家族(配偶者、子)へのVISA申請や健康保険等の会社としてのサポートは、私の場合は適用できないと言われました。・・・当時、私に海外駐在を進めてくれた上司も私とパートナーの家族転勤を応援してくれていたこともあり、『生き辛い』と上司の前で号泣したことを覚えています。
結婚している人で転勤はありませんが、勤め先から見ると私は未婚ということになっているため、何度も転勤を持ちかけられました。何度かそれを公にしたいと、なぜ私は転勤できないのか、またそういった人もいるということを知ってもらうために話したい、と理由を知っている上司へ相談しましたが、会社が混乱するとの理由で断られました。」 など

(9)  同性カップルが婚姻から排除されることによる不利益一覧

これまで述べてきたものも含め、同性カップルが婚姻から排除されることによる不利益の主なものを一覧として掲記すると、以下のとおりです。

民事関係

財産関係
  • 遺言書がない限り、相続は認められない(なお、事実婚の場合の借家権の承継(借地借家法36条1項)が同性カップルに適用されるか明らかでない)。
  • 帰属不明財産の共有推定(民法762条2項)の直接適用はなく、準用されるかも不明である。
  • 別れる際の財産分与請求が認められるか不明である。
  • 公営住宅への入居は認められないことが多い。
  • 成年後見開始審判の申立権者ではない(民法7条)。
身分関係
  • 別れる際の慰謝料請求が認められるか明らかでない。
  • 生命侵害を受けた者の配偶者による第三者に対する損害賠償請求(民法711条)が認められるか明らかでない。
  • 同居・協力・扶助義務の不存在(民法752条)
  • 一方のパートナーの実子について共同親権は認められない。
  • 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)が適用されるか明らかでない。
医療関係
  • 同性パートナーの病状についての説明を受けることができない場合やカルテの開示請求が認められない場合がある。
  • 意識不明の入院中の同性パートナーとの面会をすることができない場合がある。

刑事関係

  • 弁護人の選任権が認められていない(刑事訴訟法30条2項)
  • 受刑者への面会は原則として認められない(刑事収容施設法111条1項)
  • 遺族給付金(犯罪被害給付制度)を受け取れるか明らかでない(犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律5条1項1号)。

税制分野

  • 所得税の配偶者控除・配偶者特別控除を受けることはできない(所得税法83条、83条の2)。
  • 相続税の配偶者に対する相続税額の軽減制度は適用されない(相続税法19条の2)
  • 医療費控除のための医療費合算はできない(所得税法73条)

社会保障

  • 健康保険法でいう「被扶養者」に該当するか明らかでない(健康保険法3分野 条7項)。
  • 国民年金の3号被保険者になれるかが明らかでない(国民年金法5条8項)。
  • 遺族基礎年金及び遺族厚生年金が支給されるか明らかでない(国民年金法37条ないし42条、厚生年金保険法59条)
  • 労災補償の遺族補償・遺族給付は認められないのが原則である(労働者災害補償保険法16条の2第1項)。

外国人

  • 「日本人の配偶者等」「家族滞在」在留資格による入国が認められない。配偶者の帰化特例制度が認められない(国籍法7条)。
  • オーバーステイとなった外国人の同性パートナーがいても、男女のカップルで後から婚姻した場合のようには在留特別許可が認められない。

民間サービス

  • 同性パートナーを保険金受取人に指定することできるようになってきたが、まだできないところがある。
  • 住宅ローンのペアローン(1つの物件に2人別々のローン)は現状ではほとんど利用できない。
  • 賃貸物件を賃借するときに事実上の困難を伴う。

4  以上のような不利益を解消するため、同性カップルの中には、代替手段によって不利益を解消しようとする人たちもいました。
例えば、相続を可能にするために、養子縁組をすることが考えられます。もっとも、養子縁組には養親子関係になるという縁組意思が必要であるため、同性カップルに生ずる法的問題を乗り越えようとするために縁組をしたとしても、後々相続人から養子縁組の無効確認訴訟が提起される可能性もあります。
実際、申立人の中には、現実に縁組をしている者などもいますが、養子縁組制度が同性婚の代替とはならないという心情を率直に述べています。
(区役所で婚姻届の受理を断られたため)そのあと別途にいろいろ相談して結局養子縁組をしてしまいました。・・・資産についての問題がそれで解決されてうれしいことですが、精神的には違和感があります。つまり、年の差があっても、実際はお互いに上下関係がなくてまるで平等の付き合いです。同性パートナーの私たちに社会が現在使用可能にしているのは養子縁組だけなので、安心のため養子縁組にするしかないが、お互いの関係をより忠実に反映する結婚という選択ができたら、そのほうがより適切で望ましいです。自分たちの本当のお互い関係を現在のところ正式に認めてもらえないことは不便だけではなくて不公平だと強く思います。」 など
また、遺言による遺贈でパートナーに財産を遺すこともできますが、相続税について小規模宅地の特例制度や配偶者控除の制度が使用できないうえ、登録免許税も割高になるなど、不利益が完全に解消されるわけではありません。これらの他に、お互いの財産の権利関係や相続、医療行為への同意権などの合意を、公正証書にしておく同性カップルが年々増加していますが、社会生活上、どれだけの効力をもつのかはあいまいで、上記の問題をすべて解決できるものではありません。

5  以上のように、異性カップルが受けている利益を享受するための代替案は複数存在しますが、いずれの手段も決して万全な対策であるとはいえません。現行の法制度では、同性カップルに生じる法的問題を解決することは出来ていないのです。また、同性カップルに生ずる法的問題を解決しようと、既存の制度を用いて対策を採っていること自体、同性カップルが不利益を被っていることの現れであり、同性婚に対する当事者ニーズの現れであるといえます。

第6 同性カップルに婚姻を認めないことが憲法違反であること

1 憲法14条1項の意義と同性婚
憲法14条1項は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定しています。この規定は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、差別的な取り扱いを禁止するという趣旨のものです。
以下のとおり、「異性カップルは婚姻することができるのに、同性カップルは婚姻することができない」という異なる取り扱いは、不合理な差別して憲法14条1項に違反するものです。

2 侵害される利益の重大性

(1) 婚姻の自由

ア 憲法13条と自己決定権
憲法13条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定め、個人尊重原理に基づき、個人の幸福追求権を保障しています。
幸福追求権とは、個人の人格的生存に不可欠な利益を内容とする権利のことです。個人の人格的生存にかかわる重要な私的事項を、各自が自律的に決定できる自由(自己決定権)も幸福追求権の一つとして保障されています。なぜなら、「個人として尊重」するということは、個々人が自己の生き方を自ら決定することを尊重することですが、その個々人は個性を持ち、相互に異なる人格を有する存在であり、個々人がそれぞれの人格に即した個性的な生を選択することが許されなければならないからです。

イ ライフパートナー選択の自由
私たちは、人生の途上で、人と出会い、そこから愛が芽生えたり性的関係を含む親密な関係となることがあります。その結果として、相手をライフ・パートナーとして選択し、永続的な関係を持とうとすることもあります。これは私たちにとって人生の「重大決定」であり、ライフパートナー選択の自由は自己決定権の一内容です。

ウ 婚姻の自由
さらに、このパートナーシップを婚姻という形にすることが広く行われていますし、憲法も国が婚姻を法的に規律することを前提としています(憲法24条2項)。そして、この婚姻をするかどうか、誰と婚姻するかの選択も、やはり人が個性に応じた人生を送るうえでの重要事項であり、憲法上の自己決定権の一内容として、個々人の自律に委ねられるべきものです。
婚姻は当事者に法的・社会経済的利益をもたらします。すなわち、本申立書「第5」で述べたとおり、婚姻は、民法「婚姻」編に定められた様々な権利や社会保障法上の各種の受給権、税法上の特典など、婚姻身分に伴う各種の財産上の利益を付与し、社会的にも様々な便益をもたらします。
さらに、婚姻には心理的・社会的利益があります。人々は、お互い助け合い、相手を尊重する意味で浮気をせず、できることなら生涯をともにすることを約して結婚し、国も、両当事者が、相互扶助義務、貞操義務等を負い、一方的に解消できない関係にあることを定めます。これによって、夫婦の人間関係の安定、情緒的満足がもたらされるとともに、このことが社会に公示され、社会はその公示に従って、両当事者を社会の構成単位として認知・承認し、当事者の社会生活上の地位が強化されます。
こうして、婚姻は、親密な関係に立った当事者のパートナーシップを補強・実質化し、社会的認知をもたらします。このように、人が結婚するかどうか、誰と結婚するかという問題は、私たちがどのような人生を送るかという点で決定的な重要性を持ち、それは、伝統的に個人の自律的決定に委ねられるべきものと考えられています。婚姻する・しない、誰とするかを公権力等の介入・干渉を受けることなく選択する自由、すなわち婚姻の自由は自己決定権の一内容をなします。

エ 婚姻の自由の自由権的性格
この婚姻の自由は、信教の自由等内面的自由権と比較すると、婚姻という国の制度の存在を前提とするものではありますが、公権力を無断で立ち入らせない一定の私的領域を保障するという意味でその本質は自由権であり、婚姻するかどうか、誰と婚姻するかを自律的に選択する権利は「婚姻の自由」と呼ぶにふさわしいと考えます。

(2) 合理的区別か否かの判断基準

ア 同性間の婚姻を認めないことは性的指向による別異扱いであること同性婚を認めないことは、婚姻することを望む同性愛者や両性愛者が、異性愛者と異なり、婚姻する相手として望む同性と婚姻することができないということです。これは、婚姻について性的指向に基づく別異の取り扱いです。

イ 憲法14条後段列挙事由該当性
憲法14条1項後段に列挙される事柄に基づく差別については、その合理性について厳格に審査すべき(原則として差別的取扱いは許されない)という考え方が有力です。そこで、性的指向は憲法14条1項後段の「社会的身分」「性別」にあたるかについて検討します。
性的指向が異性に向かうのか同性に向かうのかを分ける原因は不明ですが、性的指向は自らの意志で選択するものではなく、自らの意志では変えることができない事柄です。そして、同性愛者や両性愛者については、社会的な偏見・侮蔑・無理解があり、標準から逸脱した性愛のあり方という烙印を貼られているという意味で、性的指向は「社会的身分」に該当します。
また、人間の性のあり方には、男性か女性かという性別のみならず、性的指向や性自認という次元があり、性別による不当な差別と同様に性的指向や性自認による不当な差別も存在してきたのですから、14条1項の「性別」による差別には、性的指向や性自認による差別も含むと考えるべきです。
したがって、性的指向は14条1項後段の「社会的身分」「性別」にあたることから、異性婚を認めながら同性婚を認めないという異なる取り扱いの合憲性は慎重に(合理的に疑いを持って)検討しなければなりません。

3 検討(憲法14条違反)

(1) 婚姻の自由の侵害の重大性
人は自らのライフスタイルの選択として、カップルとして生きることもシングルとして生きることもありますが、異性カップルであれば、ライフパートナーを得た場合に「婚姻」を選択することが可能であって、上述した婚姻身分に伴う様々な利益(法的・経済的利益と心理的・社会的利益)を享受することができます。実際に多くの人が「婚姻」という選択をしています。
ところが、同性カップルの場合、同じようにライフパートナーと永続した関係を取り結んでカップルとして生きていこうとしても、「婚姻」という選択肢そのものが奪われています。その深刻な意味は「第5 同性カップルの婚姻からの排除とその不利益の重大性」で述べたとおりです。
そればかりか、申立人らの陳述書によれば、同性婚がない現状が、本来は同性とのパートナーシップ関係を望む当事者が、窮余の策としての「友情結婚」という、自身の性的指向に背く異性との結婚という不条理を強いられている実情すら見受けられます。
(子どもを持ちたいと思って、同じように同性パートナーのいる)ゲイの男性と友情結婚していたことがあります。婚姻関係にあったゲイ男性との関係は世間的には『伝統的な家族観』にあてはまる夫婦に見え、結婚及び子供を産むことへのプレッシャーからは開放されましたが、現実は同性のパートナーがいるという二重生活を送っていました。友情結婚という関係はうまくいかず、子供を持つことも諦め、結局離婚しましたが多くの人をだましていたことに罪悪感は残っています。
ここ数年で急激にLGBTに対しての理解が社会に拡まってきた印象はありますが、私の周りにはまだ、親や社会的プレッシャー、子供のこと等を理由に『友情結婚』をしている(しようとしている)LGBT仲間が少なからず居ます。」 など

(2) 社会的な認知・承認からの排除
同性婚が認められないということは、同性カップルは、その関係がお互い助け合い、浮気はせずに相手を尊重し、できることなら生涯をともにしようとする関係であったとしても、その関係が社会全体に公示されて社会の構成単位として取り扱われることができないということであり、また、カップルの関係が事実として存在することを社会が認め、認知するという前述の社会的な効果を享受することができないということです。

(3) 個人の尊厳の侵害
さらに、同性愛者や両性愛者が、婚姻制度という社会の基本的な社会制度から排除され、性愛の対象である同性とのパートナーシップが事実として存在しているにも関わらず、その存在を国が認めず、法的には「赤の他人」としてしか取り扱わないということは、同性愛者や両性愛者を、いわば二級市民として扱っているのと同じで、同性愛者や両性愛者の個人の尊厳を著しく傷つけています。
また、同性間の婚姻という選択肢がない現状では、人々の意識に上る結婚は異性どうしの婚姻でしかあり得ず、そうした人々からの異性と結婚せよとの圧力に抗しきれずに心ならずも異性との結婚を選択してしまう同性愛者も未だに少なくありません。個人の人格的生存にとって極めて重要な結婚について、同性愛者が自らの性愛の対象ではない異性との結婚を選択するという残酷な状況は、同性婚を認めない法制度と密接に関連しており、その意味でも同性婚を認めない法制度は同性愛者の個人の尊厳を侵害しています。

(4) すでに多数の同性カップルが生活している事実
そして、諸外国に目を向ければ、同性婚またはそれに準じる同性パートナーシップ制度を認める国が多数となってきています。これらの諸外国では、伝統的な異性同士での婚姻観を踏まえながらも、人権尊重の観点から、婚姻にかかる社会制度を変革させてきているのです。
日本でも、社会の同性愛者や両性愛者に対する意識も受容的なものに変化し、司法や行政も同性愛者や両性愛者の問題を性的少数者の人権問題として把握するようになりました。このような状況を踏まえれば、自らの愛する同性の相手を生涯の伴侶として生活していこうとする同性カップルが多数存在するにも関わらず、同性婚を認めないことは、多様な個人の多様な生き方をそれ自体価値あるものとして尊重する憲法の個人尊重原理に照らして、もはや許されるものではありません。

4 差別を正当化する理由のないこと

(1) 憲法24条1項の文言を理由に同性婚を否定できないこと憲法24条1項が「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と規定していることから、「憲法は同性婚を認めることを禁止している(=憲法を改正しなければ同性婚が認められない)」との見解がありますが、そのような解釈は誤りです。
上記のとおり、憲法24条1項は、婚姻を異性に限定するとか、同性婚が許されないなどと述べているわけではありません。同条項以外でも、そのようなことを明示した条項はどこにもありません。
同条項が設けられた趣旨は、旧民法下における戸主を中心とする封建的な家制度を廃止し、婚姻が、戸主の同意を要することなく当事者個人の合意のみに基づいて成立するものであることを確認することにありました。したがって、同条項は同性婚を禁止しているものではありません。
憲法24条1項が「両性」「夫婦」との文言を用いていること自体、憲法制定当時想定されていた「婚姻」は異性婚であり、同性間の婚姻は想定されていなかったことを示すものですので、当時想定されていなかったものが禁止の対象となりうるはずがありません。
男女平等、夫婦の権利・義務の平等、個人の尊重こそが婚姻の原則と考える憲法24条の趣旨からすれば、同条は、同性婚を法的に承認するのに何ら障害とはならず、むしろ、同性婚を認める手がかりとなる規定であるということができます。

(2) 生殖可能性がないとの議論を理由に否定できないこと

ア 総論
同性婚を否定する理由として、「結婚とは生殖と子どもの養育を伴うものであり、次世代の再生産と安定した環境における子どもの養育のために国家は婚姻という制度を設けているのであるから、生殖可能性のない同性カップルには婚姻を認めないという別異の取り扱いをすることには合理的理由がある」という意見もあります。しかし、かかる見解も、以下に見るとおり合理的理由がありません。

イ 生殖能力が婚姻の要件とされていないこと
そもそも、民法は生殖能力を婚姻の要件とせず、生殖を目的としない婚姻も法律上有効な婚姻です。異性カップルの婚姻についても、子どもをもうける意思や能力が婚姻の要件とされているわけではありません。実際に子どもをもうけないという選択をする夫婦や、不妊によって子どもをもうけることができない夫婦は、多数存在します。さらに、性的関係を持つことさえ、婚姻の必要条件ではありません。例えば、臨終婚や獄中婚も有効な婚姻と認められています。
婚姻制度は次世代の再生産という社会のための制度としてのみあるのではなく、個人の幸せのための制度としてあると捉えるのが、現憲法の考え方です。同性カップルが双方と血縁関係のある子をもうけることは生物学的に不可能ですが、その一事をもって同性カップルを婚姻制度から排除することは許されません。

ウ 民法が血縁関係のない場合でも法律上の親子関係を認めていること
民法は、子がカップルの一方と血縁関係がなくとも、養子縁組によって法律上の親子関係を創設することを、従来から認めています。嫡出推定と嫡出否認の訴えの期間制限によって、子がカップルの一方と血縁関係がなくとも法律上の親子関係が認められることもあります。

エ 養子縁組や里親制度により子どもを養育しうること
民法は、子がカップルの双方と血縁関係がなくとも、養子縁組によって子を養育することを認めていますし、また里親・養育家庭という児童福祉の枠組みによって、血縁関係のない子をカップルが養育することも十分に可能です。

オ 実態として多くの子どもが同性カップルに養育されていること
実際、我が国において子育てをしている女性カップルは多く存在し、子育てをしているセクシュアルマイノリティ当事者の団体が発足して、当事者間の情報共有も進められています。
海外の研究を見ても、同性カップルに育てられた子どもの福祉が害されるという調査結果は存在しませんし、子育てをする家庭環境は必ずしも血縁関係にある異性カップルだけに限られているわけでもありません。両親のうち一人の親によって育てられたり、祖父母や叔父叔母に育てられたり、里親に育てられたりするケースもあり、同性カップルであることの一事をもって、子どもの養育にとってマイナスであるわけではありません。

カ 同性婚を認めると少子化が進むとの見解について
同性婚に反対する立場から、同性婚を認めると少子化が進行してしまうので同性婚を認めるべきでない、という意見が示されることがあります。この意見は、同性婚を認めれば社会に同性愛者や両性愛者が増加し、その結果として子どもを産み育てる異性カップルが減少する、という前提に立つものと思われますが、そもそも、同性婚を認めれば同性愛者や両性愛者が増加するということはおよそ考えられません。実際、同性婚が認められた諸外国で、同性婚が認められたことを原因として少子化が進んだという事実はありません。

キ まとめ
以上のとおり、同性を好きになり、その同性と結婚することを望む同性カップルが、自らの愛する相手との間に血縁関係のある子どもをもうけることができないからといって、婚姻制度の利用を拒否することは、法の下の平等という憲法の基本原則に真っ向から抵触する差別です。

(3) 結論
婚姻をするか否か、誰と婚姻するかは、人がどのような人生をどのように生きるかに関わる重要な選択であり、私たちは、普段、それが公権力の干渉を受けない私的領域にあるべきことを疑いません。ところが、私たちの社会は、同性とのパートナーシップ関係については「婚姻」の途を閉ざしています。かかる差別に正当な理由はありません。
異性と婚姻することを望む人は婚姻することができるが、同性と婚姻することを望む人は婚姻することができない、という別異の取り扱いは、不合理な差別であり、憲法14条1項に違反します。

5 近時の家族制度に関する最高裁判例に照らしても同性婚が認められないことが違憲であること
我が国の最高裁は、家族に関する法律について、家族生活の実態や社会意識の変化に着目して、従来合憲とされていた法律を憲法14条1項違反とする注目される判断を下しています。
まず、日本国民である父と日本国民でない母との間で生まれた非嫡出子については、嫡出子と異なり、日本国籍取得を認めていなかった国籍法3条1項について、最高裁は、「我が国と密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与する」という立法目的自体は合理的であると認めたうえで、日本における家族生活や親子関係に関する意識の変化やその実態の多様化等に着目して、異なる取扱いに合理的な根拠がないとして、国籍法3条1項を憲法14条違反と判断しました。
また、非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする民法900条4号(改正前)について、最高裁は、「遅くとも…平成13年…当時においては…嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていた」として、別異の取扱いについて合理的理由がないとものと判断しました。
その判断の中では、家族の中における個人の尊重の重要性を指摘し、また、自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由として不利益を及ぼすことが許されないことを述べています。いずれの判決でも、自己の意思によって変えることができない事がらを理由とする差別については、その合理性を厳しく審査するという態度を示しているのです。
同性婚を認めていない現在の婚姻制度の合理性の有無も、「個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らして不断に検討され、吟味されなければならない」のであり、その検討・吟味においては、個人の尊厳が最大限実現されるべきであり、かつ、自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由として不利益を及ぼすことは許されません。この観点からすれば、立法府に与えられた裁量権を考慮しても、同性婚を認め
いない現状が憲法14条1項に反することは明らかです。

第7 同性婚を巡る国際的潮流

  1. 現在、各種人権規約及び国際的な声明・決議によってセクシュアルマイノリティの権利保障は確立されています。日本は、自由権規約委員会と社会権規約委員会から、度重なる勧告を受けています(自由権規約委員会より2008年及び2014年、社会権規約委員会より2013年)。
  2. 同性パートナーシップに関する法整備が各国において進められています。制度の枠組みは各国ごとに様々ですが、セクシュアルマイノリティに対する差別を解消し、異性愛者と対等な権利主体として法的地位・権利及び社会保障を確保しようという目的は共通しています。いくつかに類型化される同性パートナーシップ制度の枠組みの中でも、「異性間と同様に同性間に婚姻を保障する制度」が大きな潮流です。2015年6月26日には、アメリカの連邦最高裁が、同性間の結婚を禁止する州法を違憲する判断を示し、全州において同性カップルの結婚が法的に認めるようになりました。
  3. 各国が同性婚を整備した理論的根拠として、国際人権法では、「私生活及び家族生活の尊重を受ける権利」の中に性的指向が含まれていること、「法の下の平等」の内容として性的指向に基づく不合理な差別は禁じられていることが挙げられます。「セクシュアルマイノリティにとって同性と婚姻すること」は、私生活及び家族生活における個人の尊重や自己決定権に深く関わる事がらですから、「私生活及び家族生活の尊重を受ける権利」の保障を受けます。同性婚の法制度を整備することは、性的指向や性自認に基づく差別を解消し、セクシュアルマイノリティの人権を確保するものであり、これは国際人権法の要請にも応えるものです。
  4.  しかしながら、日本では、性的指向や性自認に基づく差別解消のための、法的な整備を一切講じてきませんでした。もちろん、事実婚状態を含む同性婚についても同様です。これは、国際人権法の要請に反するもので、国際人権法違反と言っても過言ではありません。日本は、自由権規約・社会権規約を既に批准し、各種の声明等にも賛同しています。国際社会が「人権」という普遍的で不可侵な価値を共有すること、そして、日本がそのような国際社会の一員であることは、動かしようのない事実です。そうである以上、国際人権法違反の状態を放置し続けることや、セクシュアルマイノリティの人権を確保するために同性婚の法整備を進めている国際的な潮流を無視し続けることは、もはや許されません。

第8 トランスジェンダーにとっての「同性婚」

本人権救済申立の申立人らは、「日本で同性婚が法制化された場合に、自己の性のあり方に基づき、同性婚をすることを希望する可能性があると考える者」であり、その多くは、レズビアン(女性の同性愛者)、ゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)で、性自認が男性同士、または女性同士のカップルで婚姻することを求める人です。
トランスジェンダーの場合、性同一性障害者特例法により性別の取扱いの変更をすれば、法的に異性(男女)となったパートナーとは、婚姻することが可能です。しかし、性別の取扱の変更をしない、あるいはできないトランスジェンダーの場合、戸籍上同性同士となるパートナーとは、婚姻することができません。身体的性別と自認する性との違いによる困難について、どのようにバランスを取るかは個人によって異なります。必ずしもトランスジェンダーの者全てが性別適合手術を必要としているわけではありませんし、また、性別適合手術を行いたいと思う当事者の場合であっても、同手術が健康保険・生活保護における医療扶助の対象となっていないことから、手術を行うことができないこともあります。さらには、手術には様々なリスクが伴うことから、性別適合手術を選択できないこともあります。
トランスジェンダーであり、かつ性的指向が異性愛の場合、パートナーとの関係は「異性カップル」であって、特例法が性別適合手術を要件としていることや、性別適合手術が健康保険・医療扶助の対象となっていないことが、本質的な問題です。しかし、それらの問題の解決を目指すことと並行して、同性婚が法的に認められた場合に、性別の取扱いの変更をしない/できないトランスジェンダーも、戸籍上同性同士となっている愛するパートナーとの間で婚姻できるようになることは、当事者にとっても、また社会にとっても、歓迎されるべきことです。

第9 結語

およそ、社会における少数者は、不可視化されている事が多いため、少数者が直面している困難さは、多数者には重大な人権問題として認識されにくく、時として放置されがちですが、同性婚の権利保障が人格的生存に関わる重大な権利であることから、同性婚を認めるため、早急に立法措置がなされるべきです。
ある申立人も、次のとおり述懐しています。

同性愛者は、幼少期に自分のセクシャリティに気付くことが多いと思いますが、周囲の人が正しい情報を持っていないので、いじめや差別を受けることが多く、自分を否定しながら育っています。そのため、大人になっても自己肯定感を持つことができず、うつ病や依存症等の精神疾患を発症しやすく、自殺率も異性愛者と比較して約6倍とも言われています。

実際に、私の友人は、自分のセクシャリティを親や学校に理解してもらえず、3年前に自殺しました。同じような理由で自殺する人はたくさんいると思いますが、家族やパートナーが自殺を発見しても、警察に対して本当の理由を騙ることができないのが現状だと思います。また、そもそも、亡くなった方の親は同性愛者であることを知らないケースも多いと思います。

このように、私たち同性愛者は、死んでもなお『いないこと』にされているのです。当事者も、その周囲の人も、誰にも相談できない、このような見えない社会の雰囲気が無言の圧力となって、当事者たちを追い詰めているのだと思います。

「いないこと」にされる事(不可視化)がどれだけ当事者を追い詰めているかは、上記で詳しく指摘したとおりですが、それでも、この申立人は次のとおり未来への希望を述べています。

でも実際に私たちは今すでに日本で存在していて、一緒に生きています。みんなと一緒に学校に通ったり、仕事をしたり、飲みに行ったり、好きな人とのデートに心を躍らせています。みんなが大事な人を守りたいように、私たちも大事な人を守りたいと思っています。

もちろん、同性婚が実現したからといって、全ての問題が解決するとは思いません。しかし、同性愛者を『いないもの』としたり、あえて『いないもの』にしようとする社会の空気を変えることはできると思います。同性愛者でも結婚できる選択肢があるということは、好きな人との未来を描けるということです。これは同性愛者にとって生きる希望になると思いますし、セクシュアリティに悩む子ども達や若者にとっては『君は君のままでいいんだよ』という強いポジティブ・メッセージになると思います。

セクシュアリティにかかわらず、誰もが自分らしく、安心して過ごせる社会になるように、ぜひ日本でもMarriage Equalityが実現することを心から願っています。

以上のとおり、立法府及び行政府に、同性婚の法制化の措置をとるべき義務があることは明らかです。よって、申立人らは、申立の趣旨記載のとおりの救済を求めます。

以上