同性婚のこと

「同性」カップルの日本での婚姻について

同性婚人権救済弁護団員の鈴木朋絵森あいが、日本の憲法及び民法の議論状況や日本国外の状況を述べ、「同性婚」の議論をする際に重要なことを書きました。
初出 『自由と正義』(日本弁護士連合会)2016年11月号

「同性」カップルの日本での婚姻について
鈴木朋絵 森あい

Ⅰ はじめに
Ⅱ 同性婚の法的議論状況
Ⅲ 日本国外の状況
Ⅳ さいごに

Ⅰ はじめに

婚姻で全てが解決という事ではないかもしれません。しかし少なくとも、現在の何も保障のない状態よりは安心できます。私たちは、少しの安心が欲しいのです。私たちは、この国に既に共に生活しているのです。
注1)宇佐美翔子、岡田実穂「申立人の紹介」(同性婚人権救済弁護団HP内http://douseikon.net/?p=89最終閲覧日:2016年12月7日))

2015年11月、渋谷区で同性パートナーシップ証明制度が始まり、世田谷区では同性パートナーシップの宣誓が受理されるようになった。

この動きは東京の2自治体にとどまらず、三重県伊賀市(2016年4月)、兵庫県宝塚市(同年6月)、沖縄県那覇市(同年7月)と広がりを見せている。同性パートナーシップを尊重する企業による取組み等も報道され、同性カップルは、近年、日本でも存在が広く認知されてきた。

しかし、現在、日本では、法律上の性別が同じ2人による婚姻届は、受理されていない。法務省が、民法は男女の婚姻を前提としており、戸籍法は民法を前提としているため受理できないとの見解を採っているからである 注2)
注2)山﨑耕史「戸籍行政をめぐる現下の諸問題について」戸籍時報特別増刊号No.73943頁(2016年)山﨑は、所収の講演時、法務省民事局民事第一課長として、不受理証明書に憲法への言及があった場合もあるが、法務省でも憲法上の問題であると容易に言えることではない旨も述べている。

ところで、「同性」での婚姻を希望するのは、性的に同性を指向する者だけではない。異性を性的に指向するが、性自認と法律上の性別が異なることから法律上は同性どうしである人々も、「同性」婚を求めている  注3)
注3)同性婚人権救済弁護団「人権救済申立書〔概要版〕」(http://douseikon.net/lgbt/wp-content/uploads/2015/07/c1ee8bfb6459dbc5409c0e40262ae949.pdf最終閲覧日:2016年12月7日)17頁~18頁参照

本稿は、「法律上の性別が同じ2人の婚姻」としての「同性婚」を論ずる。

Ⅱ 同性婚の法的議論状況

1 憲法学での議論

憲法24条1項(「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し(以下略)」)を根拠に同性婚は容認されないというのが従来の通説とする見解がある 注4)
注4)辻村みよ子「憲法と家族」(日本加除出版、2016年)129頁「通説は、24条の『両性』をboth sexesという定めとして捉え、24条下では同性婚は容認されないと解してきた」

しかし、日本の憲法学上、同性婚はほとんど論じられてこなかった。そもそも、同性婚を論ずる際に問題とされがちな憲法24条についてさえ、著名な基本書に記載は存在しないか、または極めて少ない 注5)。同性婚についての議論の空白は、欧米諸国などと異なり、日本では同性カップルの存在が実感を持って認識されておらず、その関係性の法的保障に関心が向けられてこなかったためであろう。「通説」を決められるほど議論されてはいない。
注5)前掲辻村143頁

もっとも、若干の議論はあり、学説は大まかには以下のようにまとめることができる。

①非許容説  注6) 注 7) 憲法24条に「両性の合意」とあることから、文理解釈上現行憲法では許されないとする。
注6)赤坂正浩による第161回国会参議院憲法調査委員会(2008年11月17日)での発言
注7)渋谷秀樹「憲法第2版」(有斐閣、2013年)463頁「同性間の婚姻が異性間の婚姻と同程度に保障されると解することは憲法の文言上困難である」
追記(2022年2月23日)
渋谷は、「憲法第3版」(有斐閣、2017年)463頁においてもこの記載を維持していた。
しかしながら、渋谷は、その後、結婚の自由をすべての人に訴訟で提出された意見書(2022年2月1日付)において、上記の自身の見解について「異性間の関係だけが法的保護に値し同性間の関係は保護に値しない劣ったものとする社会通念を科学の面から支えていた精神医学と心理学において上記の知見の変更があったことを不覚にも知らずに記したものであった。この意見書をもって、この見解は誤りであった」と述べ、「憲法」(有斐閣)の「次の改訂では、『憲法は同性間の婚姻にも異性間の婚姻と同程度に保障を与えている』と改説したい」として、保障説へと説を改めたことを明らかにした。

②許容説 注8) 憲法24条に「両性の合意」とあっても、婚姻両当事者以外の合意は不要であるとの趣旨であり、また、憲法制定当時は同性婚に対しては無関心であり、時代の変化に伴い同性婚の課題が顕在化した以上、憲法24条によって同性婚制度の立法が禁じられてはおらず、憲法上許容されるとする。
注8)石川稔「新・家族法事情④同性愛者の婚姻〔その2〕」法学セミナー1984年8月号60頁「文理解釈によるのではなく、根本的には、社会制度としての婚姻という観点からも目的解釈によって同性婚の許否は決せられるべきものである」、植野妙美子「24条をめぐる解釈」杉原泰男ほか「新版体系憲法辞典」(青林書院、2008年)467頁、前掲辻村128頁

③保障説 注9) 憲法13条、24条等に基づき積極的に同性婚が憲法上保障されるとする。
注9)角田由紀子「性の法律学」(有斐閣、1991年)212頁、近藤敦「人権法」(日本評論社、2016年)149頁
追記(2022年2月23日)注7)も参照のこと。

②許容説の辻村は、個人の尊重や幸福追求権が重視される昨今では、状況の変化をもって同性婚を認めるのも無理な解釈とは言えないとする。

同性愛等に対する偏見の解消に向かう時代の変化に伴い、憲法24条が同性婚を排除する趣旨ではないとの見解が増えてきている。

2 民法学での議論

民法学では、憲法学よりはまだ議論がなされている。なお、民法では、同性であることを明文の婚姻障害事由とはしておらず、また、婚姻は異性によるものといった同性婚を排除する定義もされていない。

①否定説1・婚姻障害説  注10) 民法に明文の規定はないが、憲法24条の「両性の合意」、民法731条「男は」「女は」との婚姻適齢の規定から民法典起草者は当然のこととして書かなかったにすぎず、同性間の婚姻は生物学的婚姻障害であるとする。
注10)星野英一「家族法」(放送大学教育振興会、1994年)59頁、久貴忠彦「親族法」(日本評論社、1984年)43頁、泉久雄「親族法」(有斐閣、1997年)49頁、大村敦志「家族法第3版」(有斐閣、2010年)133頁

②否定説2・婚姻意思否定説 注11) 婚姻する意思は夫婦関係を成立させる意思であり、夫婦関係とはその社会で一般に夫婦関係と考えられているような男女の精神的・肉体結合というべきであり、同性間にはこの婚姻意思がないとする。
注11)我妻栄「親族法」(有斐閣、1961年)14頁、中川善之助「註釈親族法(上)」(有斐閣、1950年)158頁、中川高男「親族・相続法講義」(ミネルヴァ書房、1995年)119頁、佐賀家裁平成11年1月7日審判家月51巻6号71頁(女性だと思って婚姻したところ、法律上男性だったケース)

③許容説 注12) 現行民法では認められないとしても、憲法24条の趣旨は、親や戸主の意向のままに婚姻が決められるという慣例をなくし、女性の権利を確立することにあり、異性カップルのみに婚姻を保障する規定とはいえず、民法で同性婚を認めたり登録制度を設けたりすることは憲法に違反しないとする。
注12)二宮周平「家族法第4版」(新世社、2009年)31頁

各説の違いは、主に、婚姻の意義に起因する。婚姻とは「子どもを産み育てること」にあるとすれば通常同性では子どもが生まれないので、同性カップルの共同生活は「婚姻」とはいえないとの議論につながりやすい。しかし婚姻の意義をパートナー関係と共同生活の安定化に求めるのであれば、同性カップルに対して婚姻を否定する理由はない 注13)
注13)上野雅和「新版注釈民法(21)」(有斐閣、1989年)179頁

3 私見

明治民法には家督相続制度や戸主による婚姻同意権制度等で構成された「家」制度が規定されていたが、1946年に日本国憲法が制定され、1947年には憲法24条に基づき民法が大改正され、「家」制度に関わる条項は改廃された。憲法24条1項が「婚姻は、両性の合意のみ」により成立するとした趣旨は、当事者の合意のみによって婚姻が成立するものとして、「家」制度から「婚姻」を解放し、個人の意思を尊重して、その自由を徹底させることにある。憲法24条は、1項において婚姻における個人の自由の徹底、2項において婚姻当事者間の平等を保障することに本質があるといえる。憲法24条は同性婚を禁止してはいない。

そして、わが国でも、憲法13条を根拠に自己決定権(人格的自律権)を人権の一つとして認め、婚姻の自由もその一内容とする説が有力である 注14)。国家の制度である法律婚についての自由を論ずることへの異論もありうるが 注15)、婚姻するかどうか誰と婚姻するかの決定は、何を信じ何を表現するかと同程度に個人の人格をかけた問題として当然に国家の干渉は排除されるべきであり、婚姻もその本体は国家以前の社会にあることに着目して、婚姻の自由を人が人であるがゆえに認められる人権と観念することは十分可能と考える 注16)。2015年の女性の再婚禁止期間の違憲性が争われた最高裁判決 注17)が「婚姻をするについての自由」は「十分尊重に値する」と述べたこともこの趣旨に沿う。
注14)芦部信喜「憲法学Ⅱ人権総論」(有斐閣、1994年)392頁、高橋和之「立憲主義と日本国憲法(第三版)」(有斐閣、2013年)145頁
注15)松井茂記「LawInContext憲法」(有斐閣、2010年)7頁
注16)高橋和之「夫婦別姓訴訟」世界2016年3月号146頁
注17)最大判平成27年12月16日民集第69巻8号2427頁

 では、この婚姻の自由を、婚姻の相手が同性であるという理由だけで否定することは許容されるか。

少なくとも、現代の日本では、婚姻により形成された「家族」については、秩序維持のための社会統制ないし誘導の手段としての側面よりも、個人のプライベートな結合としての側面が重視されており 注18)、婚姻の目的も生殖や子の養育に限られないのが実際である。異性カップルでも、子どもを持つ意思のない夫婦、不妊等の理由で持てない夫婦、高齢の夫婦も多く存在する中、同性カップルの場合だけ、婚姻の意義を、子どもを産み育てることに限定して解釈するのは不合理である。また、同性でも、養育を担うことは可能であり、それを望む者が少なくない事実が無視されている。
注18)棚村政行「男女の在り方・男と女」ジュリスト1126号26頁(1998年)

個人の尊厳を旨とする現行憲法のもとでは、憲法24条の本来的趣旨に加えて、憲法13条の幸福追求権・自己決定権及び個人の尊重、さらに、14条の性別等による差別の禁止に基づき 注19)、日本国憲法が、同性間についても婚姻の自由を積極的に保障していると解するべきである。
注19)横田耕一「日本国憲法からみる家族」法学セミナー増刊号1985年10月94頁

Ⅲ 日本国外の状況

1 同性婚ができる国・地域

世界で初めて同性パートナーシップを法的に保障したのは、デンマークである(1989年登録パートナーシップ法成立) 注20)。その後、2000年、オランダで同性婚が法制化された。現在では、ベルギー、スペイン、カナダ、南アフリカ、ノルウェー、アルゼンチン、アイスランド、デンマーク、ニュージーランド、イギリス(北アイルランドを除く)、米国などの国々において、同性婚ができる。
注20)自治体レベルでパートナーシップ制度が生まれた米国初期の状況について、棚村政行「家族的パートナーシップ制度」(『青山法学論集』33巻3/4号、1992年)が詳しい。

2 米国最高裁判決の示唆するもの

2015年、米国最高裁は同性婚について画期的な判断をした(Obergefellv.Hodges、135S.Ct.2584(2015))。すなわち、憲法第14修正のデュープロセス及び平等な保護の条項により保障される婚姻の権利を同性のカップルも奪われることはなく、婚姻を異性間に限る州法は無効であるとし、また、州は他州で適法になされた婚姻を同性間のものであることを理由として承認することを拒否してはならないとの判断である。これにより米国の全ての州で同性婚が認められることとなった。

この判決は、その立論において日本の私たちにも示唆的である。すなわち、法廷意見は、婚姻が男女の結合とされてきた歴史は認めると同時に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う20年来のパートナーと医療輸送機の中で婚姻したObergefellら原告たちがいずれも親密な関係を築いてきた事実、そして、同性愛に対する社会的法的認識が劇的に変化した事実を指摘し、異人種間の婚姻を処罰する州法を違憲としたLoving事件判決(1967)以下一連の判決を引いて、婚姻の権利がデュープロセス条項の保障する憲法上の基本的な権利であることを判示し、それが異性カップルのみのものとされるべきか否かを問題とした。

つまり、憲法が「同性婚の権利」という新しい人権を保障しているかどうかではなく、「人間の基本権」として認められてきた「婚姻の自由」 注21)が相手方の性別(当事者の性的指向や性自認)により否定されてよいのかを問うアプローチであった。これは同性間の性的行為を処罰する州法を違憲としたLawrence事件判決(2003)や、2011年及び2014年の国連人権理事会の差別禁止決議など国際人権法の枠組みとも整合する 注22)。「婚姻の自由」が、人が人であるがゆえに認められる人権とされる以上、問われるべきは、特定の属性の人にそれを否定することが許されるか否かなのである。
注21)異人種婚の禁止や避妊具使用の規制など、多くの州法が婚姻に極端な規制を行っていた米国では、1960年代以降、連邦最高裁判所がこれら規制の合憲性を問う中で「婚姻の自由」概念が確立した(棚村政行「現代アメリカ家族法」(「講座現代家族法」1992年所収)、藤倉皓一郎「アメリカ最高裁判所の判例に見られる『家族』観」同志社法学32巻3/4号111(505頁))
注22)三成美保編著「同性愛をめぐる歴史と法」所収の谷口洋幸「『同性愛』と国際人権」148頁(明石書店、2015年)

3 日本と類似する憲法条項のもとで同性婚を法制化したスペイン

2005年に同性婚が可能となったスペインの憲法には日本国憲法24条に類似した条項がある。スペイン憲法32条1項は「男女は、法律上完全に平等に、婚姻する権利を有する」とし、同条第2項は「婚姻の形式、婚姻の年齢および能力、夫婦の権利および義務、別居および離婚の事由、ならびにその効果については、法律でこれを定める」と規定している 注23)。2012年11月6日、スペイン憲法裁判所は、同性婚を認めた民法44条が憲法32条に違反しないとの判断すなわち許容説に立つ判断をした 注24)。注目すべきは、この判断において憲法裁判所が「憲法制定当時において、同性カップルの存在を考慮した上で婚姻が定義されたのではないことを認め、異性愛ということは婚姻の重要な要素ではなく、むしろその様な考え方は、婚姻の『伝統的な考え方』に過ぎないと述べた」 注25)点である。

憲法上の文言では「男女」とされていても、制定経緯を考慮し合理的に解釈すれば憲法上許容されるとしたスペイン憲法裁判所の判断は、日本国憲法下でも同様の解釈を採りうると考えられ、大変意義がある。
注23)参議院憲法調査会事務局「スペイン憲法概要」2001年8月,32頁及び82頁
注24)http://www.tribunalconstitucional.es/en/jurisprudencia/restrad/Pages/JCC1982012en.aspx(最終閲覧日:2016年7月7日)
注25)佐久間悠太「同性婚をめぐる諸外国の動向」(*外部リンク)名古屋市立大学大学院人間文化研究科「人間文化研究」第20号2014年2月138頁

Ⅳ さいごに

スペインのサパテロ首相(当時)は、同性婚の法制化にあたり、「私たちは、私たちの隣人や、同僚や、友人や、親族が幸福になる機会を拡大しようとしているのだ」と述べた 注26)
注26)http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/06/30/AR2005063000245.html(最終閲覧日:2016年12月7日)

自分の近くに「同性」カップルがいることを知らないという方は、これを機に具体的に想像してみていただきたい。日本社会にも、現実に多数の法律上「同性」のカップルが存在し、私たちと共に生活をしている。これらの人々は、婚姻による法的保護を受けられず社会的な承認もなされない中、様々な支障を抱えながら生活している。同性カップルが育てている子どもたちもまた法的保護の枠外に置かれている。

「両性」という文言の字面を理由に、「同性」パートナーと家族になる人々の人権保障に対する無関心を放置するのではなく、憲法24条、13条、14条から保障される個人の家族形成の自由と平等という憲法上の人権を実質的に保護する観点から今後の日本での議論を進めていくべきである。

本稿の執筆にあたり、本多広高・東京弁護士会会員より貴重な資料の提供を受け、また、中川重徳・東京弁護士会会員からは婚姻の自由について重要な示唆をいただいたことに感謝する。